ローマ滞在3日目は、Tivoli へ出かけることにした。

" Good morning, Madam. "
午前9時、タクシー運転手のPaoloは、笑顔でロビーに現れた。
”Villa Adriana へお願いします。”

ローマから東へ30km。ここにはハドリアヌス帝の別荘がある。
1時間足らずで到着した門の外には、ひとだかり。
”どうしたの?”
”係員がストライキで、今日はお休みだそうです。”

そういえば、今朝、ホテルのエレベータにあった貼り紙を思い出した。
「本日は従業員組合がストですが、お客様には一切ご迷惑をおかけ致しません。」

”申し訳ありませんでした。”
”どこか、おすすめの所はありませんか?”
”きれいな湖などいかがでしょうか。それほど遠くはありません。
30分ぐらいで行けますが、、”

街道を南へ約30km。Castel Gandolfoに到着した。
車を降り、古い門をくぐってアルバーノ湖へ。

芦ノ湖の方がずっときれい、と内心がっかりした。
辺りを見回し、結局カメラに収めたのは、古い壁だった。

”壁がお好きなんですか?”とPaolo。
”ええ、大好きです。”

”わたしのガールフレンドの友達に、大阪育ちの日本人がいます。
モデルの仕事をしていて、すごく美人です。”
( Paolo は流暢な英語で話し続けた。イタリア男って、やっぱりおしゃべりなのね)

厚い雲が空を覆い、風が吹き、広場にも観光客は少なかった。

”なにか、ご覧になりたいものなどありませんか?”
”特に、、、”
”それでは、ひと回りしてみましょうか。"

広場にはどこでも噴水がある。

ひんやりした空気の中、ほとばしる水は透明で美しい。

古くから、ローマ人の避暑地としてもてはやされ、
中世には城塞がおおく築かれた、この小都市には、
風格のある建物が数多く残されていた。

広場から路地に入ると、湖を一望できるレストランが並ぶ。

帰り際、陶磁器店に立ち寄った。
店の名は、" La Bottega dell'Arte di Tiziana Properzi "
Atelier : 00040 Castel Gandolfo(RM)

”Ginoriなんて、だめよ。イタリアって土が良くないの。
ドイツで白く焼いたものに、わたしが筆で絵付けするの。
弟子に日本人の女の子もいるのよ。”
”奥にある窯、見ていいでしょうか。”
”どうぞ!”
(イタリア語に通訳してくれたPaoloに感謝)

王室御用達のものも造ると言う女主人'Tiziana' は、Paoloと親しげに話しながら、
私が買った3枚のフルーツ皿を手早く包んでくれた。

”途中、素晴らしい場所があります。アッピア街道です。
ちょっとだけ、お寄りになりますか。”
ローマへの帰り道、Paoloの誘いに、
”回り道でなければ、是非、、、”

車から降りると、空は青々し、目の前には廃墟があった。
側には、巨大な松の木が堂々と立っている。
これこそ、私が見たかったローマだ!と、しばらくその場にたちすくんだ。

”少し、向こうに歩いてみましょう。ここからは、車では大変ですから、、”

ひとつひとつの石は大きくうねり、そして傾いていた。
少し歩くだけで、腰が痛くなった。

”車に戻りましょうか。ゆっくり運転して行きましょう。
ここには、バレンチノやジナ・ロロブリジダの家があります。広くて、玄関など道からは見えません。
わたしは、パバロッティやホセ・カレラスをお乗せしたこともあります。
でも、この街道だけは、本当に難しいです。今日は3度目ですが、前より上手になりましたよ。”

石の上で大きく揺れる車の中は、地獄のようだったが、
街道沿いの景色は素晴らしかった。
真っ青な空、緑が輝く田園、点在する廃墟。

”写真を撮るようだったら、おっしゃってください。車を停めますから、、”
そんなPaoloの言葉もむなしく、腰は疲れ果て、カメラに収めたのはこの一枚のみ。

”途中、もう一カ所いいところがありますが、、、、”と、また誘いの言葉。
”2時に主人と約束してるの。急いで帰らないと。”

”明日、お出かけだったら是非ご連絡ください。”と別れ際もらった電話番号。
翌日電話したら、”今日はお休みです”、というオペレータの返事だった。